〜カヤックで琵琶湖を旅するブログ〜
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菅浦から葛籠尾崎へ



 芝木好子の「群青の湖」という小説を読んだ。詳細は省略するが、菅浦から見る琵琶湖の光景が描写されているのが印象的だった。菅浦は写真を撮りに何度も訪問しているが、カヤックで漕ぐのは今回が初めてになる。

 葛篭尾崎の付け根の西側に位置するこの集落は、他の集落からかなり距離がある。数十年前までは、陸路はなく、他の集落への交通手段は水路によるものであったそうだ。
 この集落の西側に、須賀神社がある。北に向かって、真っ直ぐな参道が山を登るように伸びている。参詣は土足厳禁であり、素足で参道を登らなくてはならない。

 この日は9時に到着した。春祭りだと思うけど、神輿の用意や飾り付けが行われていた。カヤックは、僕以外では、リジットのシーカヤックのタンデム艇とシングル艇が1艇ずついた。僕が組み立てをしている時に、その2艇は漕ぎ出して行き、すぐに岬の向こうに消えていった。おそらく、竹生島へ向かったのであろう。
 
人の暮らしが間近にある浜は、とてもいいなあと思う。





 こちらも、準備が整い10時くらいに出艇した。この日の天候は風はほとんどなく、波も穏やか。でも、黄砂の影響なのか空気はクリアではない。遠景がぼやけて見える。写真撮影には向いていない。まずは、集落に沿って、水面にゆらゆらと映りこむ家並みを眺めながら漕ぎ進むことにする。西の方角にある山を見ると、山頂近くに雪が残っている。





 しばらくすると民家がなくなり、畑がわずかの間続く。もう終わりかけの梅の花がまだ咲いている。集落とは少し離れた場所に、崩れかけた民家が建っている。ほどなく、湖沿いのハイキング道は、山の方へ向かうようになり、水際の道は途切れる。その後は、岩が多くなる。苔むした岩肌を背景に咲き始めた椿の赤が印象的だ。数週間で、満開を迎えるだろう。

 湖に映りこむ稜線が、造形的な美を醸し出している。僕が水上で写真を撮るときに、風景写真の必需品とも言える偏光フィルターを用いないのは、水面に映りこむ景色を楽しみたいからだ。






 最初の岬を曲がりこむと、竹生島が右舷に現れてくる。先ほどの2艇のシーカヤックは、既にどこにも見えない。この辺りの葛篭尾崎は岩礁になっていて、ところどころに岩が水面から突き出している。それらは、目視が容易なのだが、水面下に潜っている岩が曲者だ。気付かずに、岩に乗り上げてしまうと、船体を傷つける可能性があるので、それを気遣いつつ、漕ぎ進む必要がある。

 葛篭尾崎は、全ての場所が岩礁地帯になっているわけでもなく、浜辺になっている場所もある。岩礁と浜辺が交互に現れるような地形である。葛篭尾崎は、そのものが岬であるが、仔細に湖岸をたどっていくと、いくつもの小さな岬とその間に浜辺が存在していて、岬の突端が岩礁になっているようである。その小さな岬の間の浜辺近くで、ニホンアナグマを目撃した。





 最初は、タヌキかと思ったが、どうも違う。冬眠から目覚めたばかりなのか、動作が鈍く、何枚か撮影することが出来たので、自宅へ戻ってから調べたら、ニホンアナグマであることが判明した。この日は、あいにく望遠レンズを持っていなかったので、レタッチソフトで切り出しを行った。他にも、鹿を見たが、これは一瞥しただけで、山へ駆け上がって行ってしまったので、撮影する暇がなかった。

 水面下の岩に注意しつつ、次の岬を回り込み、しばらく進むと何かの小屋があった。歩道に面しているのであれば分かるのだが、おそらく小舟でしか来られない場所に、何でこんな構造物があるのだろうか。秘密結社が、陰謀を企てるための施設なのだろうかと妄想しつつ、パドルを左右に反し漕ぎ進む。




 11時30分になったので、浜辺にカヤックを引き上げて、少し早い昼食にする。この日のメニューは、おにぎり3個。行きがけに、総菜屋で買ってきたものだ。高菜のおにぎりを、一口頬張った瞬間に、ふいに強い風が吹いた。嫌な予感がしたので、急いでたいらげて、カヤックに乗り込む。ここから状況は一変する。

 天気予報では、風は穏やかなはずなのに、風はどんどん強くなり、止む気配も弱まる気配もない。出艇地まで5キロほどの距離を戻らなくてはならない。急いで力いっぱい漕ぎ進むが、風が強くてまっすぐに進まない。岬と岬を直線でつなぐように、最短距離を漕いで帰りたいのだが、沈した時の事を考えると沖に出てはまずいので、岸に近いところを漕ぐようにするが、風の影響で進行方向が沖に向かってしまう。左側が長くなるようにパドルを持ち替えて、進路を保つようにして、必死に漕ぐ。

 少し怖くなってきたので、一度岸に上がって、浜辺を歩いてカヤックを引っ張るが、岩礁地帯に差し掛かると歩くことは出来ないので、再びカヤックに乗り込む。沖に流されないように注意し岸に近いところを漕ぐが、岩礁地帯ではそれが仇になり、ついに座礁してしまう。脱出できないと、どうしようもないので、カヤックから片足を船外に出して、岩を蹴ろうと試みるが、岩肌がヌルヌルでまったく効果がない。重心を移し過ぎると、バランスを崩して沈する可能性があるので、足で岩を蹴って脱出するのは諦めた。
 ここで、あまり手こずっていると、船体布に穴が開く可能性がある。いや。もう、この時点で穴が開いたと思っていた。もしそうなら、ビルジポンプで掻き出しつつ、進むしかない。それよりも、今は、座礁した状態からの脱出が先決である。

 普段使用しているのは、グラスファイバー製のパドルなので、このパドルで岩を突くのは避けたかったが、もし、損傷してしまっても、予備のパドルを今回は持って来ているので、敢えてパドルで水面下の岩を突き、何とか脱出した。結果的にパドルが傷むことはなかった。

 次に心配なのは、船体布の穴からの艇内への浸水だが、あれだけ底を擦ったにも関わらず、穴は開いていなかったようで浸水はなかった。しかし、まだまだ安心出来る状況ではない。出艇地までは、かなりの距離がある。波も高くなってきた。膝に力を入れ、しっかりとニーグリップをしてバランスを取る。バウ側のデッキに波が乗る。アルピナのタンデム艇はオープンデッキだけど、コーミングカバーをしておいて良かった。もし、コーミングカバーをしていなければ、波が進入し艇内が水浸しになるところであった。

 そんな状況で、必死でパドリングを繰り返し、湖岸にハイキング用の歩道が隣接しているところまで戻ってくることが出来た。ここまで来たら、いつでも陸に上がる事が出来る。しかし、出艇地まではまだ距離があるので、もう少しがんばって漕ぐことにする。それから15分くらいして、出艇地近くの浜辺に辿り着き、カヤックを引き上げた。その直後、湖の西の方を見ると、先ほどの2艇のシーカヤックが戻ってくるのが見えた。荒れた湖でも、シーカヤックの方がぐいぐいと進めるのだろう。見ていると、あっという間に岸に到着していた。

 カヤックを、かたづける前に乾かそうと思い、裏返して穴が開いていないか確認するために、船体布の底の部分を確認する。やはり、傷が付いている。あれだけ岩でこすったのだ。無傷でいられるはずはない。キールに沿った部分は、船体布が二重に貼り付けてあり、補強してある。その一枚目に穴が開いていた。二枚目の布までに傷が到達しなかったから、穴が開くことを免れたのだ。幸運に感謝しなくてはならない。風が強いせいか、すぐにカヤックは乾いてしまった。

 この日の出来事を振り返って、そもそも数キロに渡って人気のない場所に、僕の力量で単独で航行するのは、無謀な行為だったのだ。これからは、危ないと思ったらいつでも、陸に戻れる環境でカヤックを楽しむことにしよう。

 船体布の補修をしなくてはならない。それにしても、船体布が二重張りになっている部分なので、開いた穴から、二枚の船体布の間に水が入り込んでしまっている。これは、完全に乾かすことは出来ないので、ある程度見切りをつけて、補修しなければならないだろう。



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